夫婦間で贈与税がかからない3つの方法と注意点を税理士が解説

結論を先に言います。夫婦間でも財産の移動は原則として贈与税の対象です。ただし、非課税にできる方法が3つあります。年110万円以下の暦年贈与、生活費・教育費の都度払い、そしておしどり贈与(配偶者控除)です。
この記事では、その3つの使い方と手順、口座移動やへそくり運用で課税される失敗例、税務署に名義預金と疑われないための証拠の残し方まで、実務の目線でまとめます。私は相続・贈与専門の税理士として15年、こうした「良かれと思った移動」が後から問題になる現場を何度も見てきました。
夫婦間でも原則として贈与税はかかる

まず大前提です。国税庁の案内に基づくと、夫婦だから無条件で非課税、ということはありません。非課税になるのは「生活費・教育費の通常必要額」「年110万円以下」「配偶者控除の要件を満たす居住用不動産等」に限られます。
なぜ夫婦間の財産移動が贈与になるのか
贈与税は「ある人の財産が、対価なしに別の人の財産になった」ときにかかる税金です。ここに夫婦という例外はありません。夫の口座から妻の口座へ無償でお金が移れば、それは法律上の贈与に当たります。

私が実務でよく見るのは、これを「夫婦の共有財産だから」と思い込んでいるケース。気持ちは分かります。でも税務上は名義人ごとに財産を見るので、その理屈は通りません。
贈与税の基礎控除110万円の考え方について続けます。
暦年課税には基礎控除があり、1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計が110万円以下なら、贈与税はかからず申告も不要です。夫婦間でもこの枠は同じように使えます。
夫婦間で贈与税がかからない3つの方法
非課税にする道は大きく3つ。それぞれ条件と上限が違います。まず全体像を表で押さえてください。

| 方法 | 非課税の上限 | 主な条件 | 申告 |
|---|---|---|---|
| 年110万円以下の暦年贈与 | 年110万円 | 1年間の贈与合計が110万円以内 | 不要 |
| 生活費・教育費の都度払い | 通常必要な範囲 | 必要な都度に充て、使い切ること | 不要 |
| おしどり贈与(配偶者控除) | 2,000万円+基礎控除110万円=最大2,110万円 | 婚姻20年以上・居住用不動産またはその取得資金 | 必要 |
年110万円以下の贈与にとどめる、が一番シンプルです。
同じ年の夫婦間の贈与を合計110万円以内に抑えれば、それだけで贈与税はかかりません。判定期間は1月1日から12月31日。年をまたげば翌年また110万円の枠が使えます。
ただし注意。毎年同じ金額を機械的に渡し続けると、「最初からまとまった額を渡す約束だった」と見られるリスクがあります。実務では金額や時期に変化をつける、その都度の合意を残す、といった工夫をします。
次に、生活費・教育費としてその都度渡す方法です。
国税庁は、扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるものには贈与税がかからないと案内しています。生活費の振り込みや学費の支払いは、もともと課税対象外です。
ここで落とし穴。非課税なのは「必要な都度、実際に使う」場合だけ。生活費の名目で渡したお金を使わずに貯金や投資へ回すと、この扱いから外れて贈与とみなされます。
最後がおしどり贈与で最大2,110万円まで非課税にする方法です。
正式には「贈与税の配偶者控除」。婚姻期間20年以上の夫婦が、居住用不動産またはその取得資金を贈与した場合に、基礎控除110万円に加えて最大2,000万円まで控除できます。合計2,110万円が非課税枠です。
金額は大きいですが、これは自動では使えません。次の章で手順を具体的に説明します。
おしどり贈与を使う具体的な手順

所要時間の目安は、書類集めから申告まで1〜2か月。難易度は中くらいです。不動産の名義変更(登記)が絡むので、司法書士と税理士に相談しながら進めるのが安全です。
前提として必要なもの:婚姻20年以上を証明できる戸籍、対象となる居住用不動産(または取得資金)、贈与契約書、そして贈与税の申告書。順に進めます。
ステップ1、利用できる条件と対象財産を確認します。
条件は3つ。婚姻期間が贈与時点で20年以上あること。贈与財産が国内の居住用不動産か、その取得資金であること。贈与を受けた配偶者が実際にそこに住み、住み続ける見込みがあること。ここまで確認できていれば最初の関門は通過です。
ステップ2、必要書類をそろえて申告します。
国税庁は、この特例を受けるには一定の書類を添付して贈与税の申告をすることが必要だと案内しています。申告先は所轄税務署です。期限内に申告しないと特例が使えない点が最大の注意点です。
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 贈与税の申告書 | 配偶者控除の適用を記載して提出 |
| 戸籍謄本・戸籍の附票 | 婚姻20年以上と居住の事実を確認 |
| 登記事項証明書など | 贈与した居住用不動産を特定 |
ステップ3、登録免許税・不動産取得税などのコストを把握します。
ここが見落とされがちな部分です。おしどり贈与で贈与税がゼロでも、不動産の名義を移す登記に登録免許税がかかり、不動産取得税も別途発生します。さらに司法書士への報酬も要ります。
正直に言うと、贈与税が非課税でも、これらのコストで数十万円単位の出費になることがあります。「税金ゼロ」という言葉だけで動くと、後から想定外の負担に驚きます。
ステップ4、うまくいかないときの注意点と、相続税対策での逆効果についてです。
私がこの特例を一律にはおすすめしない理由がここにあります。相続では、配偶者には大きな税額軽減があり、もともと相続でも自宅を引き継げば税負担が抑えられるケースが多い。生前にわざわざおしどり贈与をすると、登録免許税・不動産取得税という余計なコストだけが増えて逆効果になる場合があります。
うまくいかないとき、というより「使う前に」考えてほしいのは、本当に生前贈与すべきか。私なら、相続まで保有した場合と比較して、コスト差を試算してから判断します。
日常生活で思わぬ贈与税がかかるケース
非課税の方法を知ったら、次は「うっかり課税される行為」を避けることです。良かれと思った行動が後から名義預金や贈与と指摘される、これが一番多い相談です。

夫婦の口座間でのお金の移動・へそくり運用について。
夫の給料を妻名義の口座にまとめて移し、110万円を超えて積み上がっていく。これは典型的な課税リスクです。さらに、その妻名義の口座のお金を、妻が株や投資信託で運用すると、原資が夫のものなら贈与とみなされる余地があります。
いわゆる「へそくり」も同じ理屈。生活費として渡されたお金を使わずに貯めて運用していれば、もともとの非課税扱いから外れます。
高額なプレゼントや保険金の受け取りも要注意です。
記念日の高額な宝飾品や車などは、社会通念上の範囲を超えると贈与とみなされることがあります。また、夫が保険料を払い、妻が受取人になっている保険金は、夫が亡くなれば相続税、夫が生きている満期受取などでは贈与税の対象になり得ます。誰が保険料を負担したかがカギです。
不動産の持分を超えた費用負担も見落とされがちです。
共働きで自宅を買い、頭金やローン返済の実際の負担割合と、登記した持分割合がずれていると、その差額が贈与とみなされます。たとえば夫が大半を負担したのに持分を半々にすると、妻に贈与があったと見られます。
実務では、出した金額に応じて持分を登記するのが鉄則です。住宅ローンを誰の名義でいくら組み、頭金を誰がいくら出したかを記録しておきましょう。
離婚時の財産分与と、「知らなかった」での発生についても触れます。
離婚に伴う財産分与は、原則として贈与税の対象外です。ただし、分与額が婚姻中の協力で築いた財産に照らして明らかに過大な場合などは課税されることがあります。
そして大事な点。贈与税は「知らなかった」では免除されません。本人に贈与の意識がなくても、財産が無償で移った事実があれば課税の対象になります。
税務署に指摘されないための証拠の残し方
贈与を非課税の枠内で行ったとしても、後から「これは本当に贈与だったのか」を証明できないと困ります。特に問題になるのが、相続のときに浮かび上がる名義預金です。証拠を残すことが、家族を守る最大の防御になります。

贈与契約書の作り方から。
暦年贈与でも、毎回ごく簡単な贈与契約書を作っておくと安心です。書く内容は、誰が誰に、いつ、いくらを贈与したか、双方が合意したこと。両者が署名・押印します。さらに口座振込で記録を残せば、お金の流れが客観的に証明できます。
現金手渡しは避けてください。証拠が残らず、後で「いつの贈与か」がわからなくなります。
名義預金として相続時に問題化する仕組みを説明します。
名義預金とは、口座の名義は配偶者でも、実際の出どころとお金の管理が本人でない預金のこと。妻名義でも、入金したのが夫で、通帳も印鑑も夫が管理していたら、税務署はその預金を夫の財産(相続財産)とみなします。
私が相続の現場で一番もめるのがこれです。生前に贈与したつもりでも、名義人が自由に使えていなければ贈与は成立していない、と判断されます。
税務調査で発覚するタイミングについて。
夫婦間の贈与が表面化する最大の場面は、相続が発生したときの税務調査です。被相続人の過去の口座の動きと、家族名義の預金残高を照らし合わせて、不自然な資金移動を洗い出します。生前は問題にならなくても、相続を機に過去にさかのぼって指摘されるのです。
申告が必要な場合の手続きとペナルティ

110万円を超える贈与を受けた、あるいはおしどり贈与の特例を使う場合は、贈与税の申告が必要です。期限と手順、計算の目安、そして払わなかった場合のペナルティを押さえておきましょう。
申告期限と必要書類です。
贈与税の申告は、財産をもらった年の翌年2月1日から3月15日までに、もらった人の住所地の所轄税務署へ行います。必要なのは贈与税の申告書、本人確認書類、そして特例を使うなら戸籍など添付書類です。
贈与税の計算方法と税率の目安を示します。
暦年課税の計算は、1年間にもらった財産の合計から基礎控除110万円を引き、残った金額に税率をかけます。夫婦間など一般贈与財産に使う税率は、課税価格が大きくなるほど高くなる累進構造です。
| 手順 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 1年間にもらった財産を合計する |
| 2 | 合計から基礎控除110万円を差し引く |
| 3 | 残った課税価格に区分ごとの税率を掛け、控除額を引く |
金額別の正確な税率と控除額は改正されることがあるため、ここで具体数値は断定しません。実際の計算では最新の税率表を確認してください。
延滞税・加算税などのペナルティについて。
申告や納付をしないと、本来の税額に加えてペナルティが上乗せされます。期限後申告には無申告加算税、納付が遅れれば延滞税、意図的な隠ぺいには重加算税。後から発覚すると本税より負担が膨らむこともあります。
だからこそ、迷ったら期限内に正しく申告するのが結局いちばん安く済みます。
制度改正と他の特例との比較で損しない選び方
贈与の制度は近年動いています。特に相続前の贈与を相続財産に持ち戻すルールが変わりました。ここを知らずに暦年贈与を進めると、思った節税効果が出ないことがあります。

相続前7年ルール(生前贈与加算)の影響です。
これまで相続開始前3年以内の贈与は相続財産に加算されていましたが、改正で加算期間が7年に延長される方向で見直されました。つまり、亡くなる直前に駆け込みで暦年贈与をしても、その分が相続財産に戻されて節税にならないケースが増えます。
早めにコツコツ進めるほど効果が出る、という方向に制度が変わったと理解してください。
住宅取得資金贈与の非課税特例との違いについて。
住宅取得資金の贈与の非課税特例は、主に親から子・孫への住宅資金が対象で、夫婦間の居住用不動産を対象にするおしどり贈与とは別物です。対象者も対象財産も違うので、混同しないようにしてください。
相続時精算課税制度との比較も整理します。
相続時精算課税は、まとまった額を一度に贈与しても一定額まで贈与時に課税せず、相続時に精算する制度です。暦年贈与とどちらが有利かは、財産規模と渡す時期で変わります。
| 選択肢 | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|
| 暦年贈与(110万円) | 長い年月をかけて少しずつ移したい | 相続前7年は加算の対象になり得る |
| おしどり贈与 | 婚姻20年以上で自宅を配偶者へ移したい | 登録免許税・不動産取得税のコストがかかる |
| 相続時精算課税 | まとまった額を早く移したい | 相続時に精算され税負担が消えるわけではない |
専門家に相談すべき判断基準を最後に。
自宅などの不動産が絡む、財産が相続税のかかる規模、過去に家族名義の口座へ多額を移している。このどれかに当てはまるなら、自己判断せず税理士に相談したほうが安全です。コストと効果を試算したうえで進める価値があります。
よくある質問(FAQ)
よくある質問
最後にひとこと。夫婦間の贈与でいちばん多い失敗は、節税のつもりの口座移動が相続のときに名義預金として蒸し返されることです。今日できる一歩は、家族名義の口座のお金が「誰のお金か」を整理して、贈与なら記録を残しておくこと。それだけで将来のトラブルはかなり減らせます。
