生前贈与のやり方を6ステップで解説|費用・契約書・税金まで完全ガイド

この記事では、贈与の6ステップ、財産別のやり方、贈与契約書の書き方、費用と税金の計算、2024年改正後の最新ルール、そして否認されない注意点までまとめました。読み終えれば、今日から自分で動き出せる状態になります。
私は相続・贈与専門の税理士として、制度の一次情報と実際の手続きを照らし合わせながら書いています。教科書の引き写しではなく、現場でつまずきやすい点を中心にお伝えします。
生前贈与のやり方を6ステップで解説【所要時間・難易度の目安つき】

生前贈与は、生きている間に財産を無償で渡す行為です。贈与税は1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与額を合計し、基礎控除を引いて計算します。
現金贈与だけなら難易度は低く、契約書作成と振込で半日もあれば終わります。不動産が絡むと登記が必要になり、難易度は一段上がります。下の表で全体像をつかんでください。
| ステップ | やること | 所要時間の目安 | 難易度 |
|---|---|---|---|
| 1 | 誰に何を贈るか決める | 数日〜 | 低 |
| 2 | 暦年課税か相続時精算課税を選ぶ | 半日 | 中 |
| 3 | 贈与契約書を作成する | 1〜2時間 | 低 |
| 4 | 財産を移す(振込・登記) | 即日〜数週間 | 中〜高 |
| 5 | 贈与税の申告(必要な場合) | 半日 | 中 |
| 6 | 不動産取得税の納付(不動産のみ) | 後日納付 | 低 |
ステップ1 誰に・何を・どんな目的で贈与するか決める
まず「誰に」「何を」「何のために」を紙に書き出します。子に住宅資金、孫に教育資金、配偶者に居住用不動産——目的が変われば使える非課税制度も変わるからです。
ここまでできていれば正しい:贈与する相手・財産・金額・目的が一文で言える状態です。「長男に現金200万円を生活支援として贈与する」のように具体化できればOK。
ステップ2 暦年課税か相続時精算課税かを選ぶ
贈与税の課税方法は2つ。暦年課税は年110万円以下なら贈与税がかからず、申告も不要です。
相続時精算課税は累計2,500万円まで贈与時に課税されず、超えた分は一律20%。2024年からはこの制度にも年110万円の基礎控除が新設されました。どちらを選ぶかは後述のシミュレーションで判断します。
うまくいかないときは:相続時精算課税は一度選ぶと暦年課税に戻せません。迷ったら無理に届出を出さず、まずは暦年課税で始めるのが安全です。
ステップ3 受贈者の合意をとり贈与契約書を作成する
贈与は、あげる人ともらう人の合意で成立します。口約束でも法律上は成立しますが、証拠が残らないと税務署に否認されやすい。だから契約書を必ず作ります。
ここまでできていれば正しい:双方が署名・押印した贈与契約書が手元にある状態。書式は後の章でテンプレートを示します。
ステップ4 財産を移し贈与税の申告・納付を行う
現金なら贈与者の口座から受贈者の口座へ振り込みます。手渡しは記録が残らないので避けてください。
贈与税がかかる場合の申告期限は、原則として贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日まで。納付は金銭で一括が原則ですが、税額が10万円を超え一括が難しいときは延納が認められることがあります。
完了状態:振込履歴と申告書控えが揃えば、この手順で正しく財産を移し、申告まで完了したことになります。
財産の種類別・生前贈与のやり方の違い
贈与する財産によって手続きは大きく変わります。現金は振込で済みますが、不動産は登記が必要で税金も増えます。種類別に見ていきます。

現金・預金を贈与する場合のやり方
いちばん簡単です。契約書を作り、贈与者名義の口座から受贈者名義の口座へ振り込むだけ。
注意点はひとつ。受贈者本人が普段使う口座へ入れること。親が管理する子名義の口座に入れると、後述の名義預金とみなされます。
不動産を贈与する場合のやり方と不動産取得税
不動産は贈与契約書を作ったうえで、法務局で名義変更(所有権移転登記)を行います。登記には登録免許税がかかり、贈与後には不動産取得税も関係します。
税率や軽減の要件は都道府県や物件によって異なります。断定的な税額は、登記前に必ず法務局と都道府県税事務所で確認してください。私は不動産贈与の場合、登記ミスを防ぐため司法書士への依頼を勧めています。
株式・有価証券・生命保険を贈与する場合のやり方
上場株式は証券会社で名義移管(贈与による移管)の手続きを取ります。評価額は贈与日の終値などをもとに計算するため、移管日の記録が重要です。
生命保険は、保険料負担者と契約者・受取人の関係で課税が変わります。契約者変更だけでは贈与にならないこともあり、ここは自己判断せず保険会社と税理士に確認するのが確実です。
贈与契約書の書き方とテンプレート例
否認されない生前贈与の要は、契約書です。実務で「契約書がない」ために贈与を認められなかったケースを何度も見てきました。ここを丁寧にやれば失敗の大半は防げます。

契約書に必ず記載する項目
贈与契約書に決まった様式はありませんが、入れるべき項目は決まっています。下記を満たせば十分です。
| 項目 | 記載内容の例 |
|---|---|
| 契約日 | 令和7年4月1日 |
| 贈与者 | 氏名・住所(あげる人) |
| 受贈者 | 氏名・住所(もらう人) |
| 贈与財産 | 現金200万円/不動産の所在地番など |
| 渡し方 | 受贈者名義の口座へ振込で引き渡す |
| 署名押印 | 双方が自署し押印 |
テンプレート例(現金の場合):「贈与者○○は、受贈者○○に対し現金200万円を贈与し、受贈者はこれを受諾した。本贈与は令和7年4月中に受贈者名義の銀行口座へ振込により引き渡す。」この一文に日付と署名押印を添えるだけで成立します。
収入印紙が必要なケース・不要なケース
現金の贈与契約書には収入印紙は不要です。一方、不動産を贈与する契約書は印紙税の課税文書にあたり、原則200円の収入印紙が必要になります。
印紙を貼り忘れても契約自体は有効ですが、過怠税の対象になります。不動産が絡むときは念のため貼っておくのが無難です。
贈与の証拠を残すための実務(振込・時期・金額の工夫)
私が顧客に必ず伝えている、証拠の残し方です。
・手渡しでなく銀行振込にする(通帳に履歴が残る)。・毎年同じ日・同じ金額にしない(定期贈与と疑われないため)。・贈与契約書を都度作る。・受贈者本人が口座の通帳と印鑑を管理する。この4点を守れば、否認リスクはぐっと下がります。
生前贈与にかかる費用・税金とシミュレーション

自分でやれば費用はほぼゼロ、かかるのは贈与税だけです。専門家に頼むと報酬が上乗せされます。まず贈与税の計算から見ていきます。
贈与税の税率表・速算表と計算例
贈与税は、年間の贈与額から基礎控除110万円を引いた額に税率をかけて計算します。18歳以上の人が直系尊属(親や祖父母)から受けた贈与には、税率の低い特例税率が使えます。
| 基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 200万円以下 | 10% | 0円 |
| 400万円以下 | 15% | 10万円 |
| 600万円以下 | 20% | 30万円 |
| 1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
| 1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
| 3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
| 4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
| 4,500万円超 | 55% | 640万円 |
計算例:親から子へ年間500万円を贈与した場合。500万円-110万円=390万円。390万円×15%-10万円=48万5,000円が贈与税です。110万円以内に収めれば税額はゼロになります。
暦年課税と相続時精算課税どちらを選ぶかの判断基準
正直、ここはケースで結論が割れます。私の判断基準はシンプルです。
| 観点 | 暦年課税 | 相続時精算課税 |
|---|---|---|
| 非課税枠 | 年110万円 | 累計2,500万円+年110万円の基礎控除 |
| 申告 | 110万円以下は不要 | 選択時は届出が必要 |
| 相続時の扱い | 一定期間分を加算 | 贈与分を相続財産に加算 |
| 向く人 | 毎年コツコツ渡したい人 | まとまった額を早く渡したい人 |
相続時精算課税は、最初の贈与を受けた翌年2月1日から3月15日までに「相続時精算課税選択届出書」を申告書と一緒に出す必要があります。一度選ぶと撤回できません。
私なら、長期間かけて分散贈与できる人には暦年課税、値上がりしそうな財産や早期にまとまった額を移したい人には相続時精算課税を勧めます。
専門家(税理士・司法書士)に依頼した場合の費用相場と選び方
自分でやれば費用はかかりませんが、不動産登記や高額贈与は専門家に頼む価値があります。役割の分担は明確です。
| 依頼先 | 主な役割 | 頼むべき場面 |
|---|---|---|
| 税理士 | 贈与税の申告・節税の設計 | 高額贈与・相続時精算課税の選択 |
| 司法書士 | 不動産の名義変更登記 | 不動産の贈与 |
| 弁護士 | 遺留分・親族間の調整 | もめる可能性がある場合 |
報酬は事務所ごとに差が大きいので、複数の見積りを取って比較してください。具体的な金額はここで断定できる一次情報がないため、事務所の料金表で確認するのが確実です。
2024年税制改正で変わった生前贈与の最新ルール
2024年の改正は、生前贈与のやり方を考えるうえで無視できません。とくに「7年加算」と「精算課税の110万円控除」は、今後の贈与計画を左右します。

生前贈与加算期間が7年に延長された影響
暦年課税で贈与した財産は、相続開始前の一定期間分が相続財産に加算されます。2024年1月1日以後の贈与から、この持ち戻し期間が段階的に7年へ延長されました。
つまり、亡くなる直前に駆け込みで贈与しても、相続税の節税効果は薄くなります。暦年贈与で効果を出したいなら、早く始めるほど有利です。これが改正の最大のメッセージだと私は受け止めています。
相続時精算課税に年110万円の基礎控除が新設された影響
これは正直、使い勝手が大きく良くなった改正です。相続時精算課税を選んでも、年110万円までの基礎控除が新設され、その範囲内なら贈与税の申告は不要になりました。
しかも精算課税の基礎控除分は、暦年課税のような相続前の加算の対象になりません。毎年110万円以内で渡すなら、精算課税の方が有利になるケースが増えました。
税務署に否認される生前贈与の失敗例と回避策
せっかく贈与しても、否認されれば相続財産に戻され、相続税がかかります。実務で見てきた失敗の典型を、回避策とセットで挙げます。

名義預金・定期贈与とみなされるリスク
いちばん多いのが名義預金です。子名義の口座に親が入金し、通帳も印鑑も親が握っている——これは贈与と認められず、親の財産とみなされます。
回避策は、受贈者本人が口座を管理し、自由に使える状態にすること。もうひとつが定期贈与。毎年同額を同時期に贈ると「最初からまとまった額を分割した」と見られ、総額に課税されることがあります。年ごとに金額や時期を変え、都度契約書を作って防ぎます。
認知症発症後は贈与できない|タイミングの注意点
見落とされがちですが、贈与は当事者の合意で成立します。贈与者が認知症などで判断能力を失うと、有効な合意ができず贈与はできません。
成年後見人が付いても、本人の財産を減らす贈与は原則認められません。だから「元気なうちに」が鉄則です。先延ばしにして贈与の機会を失った家族を、私は何件も見ています。
相続放棄・遺留分・特別受益との関係
生前贈与は、相続のときに「特別受益」として扱われ、遺産分割で考慮されることがあります。特定の子だけに多く贈与すると、他の相続人から遺留分侵害額請求を受けるおそれもあります。
家族間でもめないために、贈与の理由と金額を記録に残し、できれば事前に家族へ説明しておくこと。税金だけでなく、人間関係の設計も生前贈与の一部です。
生前贈与のやり方でよくある質問

相談現場でよく受ける質問を、要点だけまとめました。
よくある質問
最後にひとつだけ。生前贈与でいちばん多い失敗は「制度を調べすぎて動けないまま、贈与者の判断能力が落ちる」ことです。完璧を待つより、まず契約書を1枚作り、110万円以内を振り込むところから始めてみてください。
